物件は、長年空きテナントとなっていた甲府市丸の内のビルの一区画。
「印刷文化の継承と甲府の街に賑わいを」そんな想いを持つ歴史ある印刷屋さんの相談からプロジェクトが始まった。
デジタル社会となった今日、紙媒体への需要が失われつつあり、旧き良き印刷技術の継承を憂えていたお施主様の強い想いに共感し、文字通り二人三脚で計画がスタートしていった。主役は、ドイツから輸入したグーテンベルグ社の活版印刷機と岐阜からやって来た膨大な活字の数々、そして使い込まれた味わい深い2台のテキン。これらの主役を中心に、店舗のデザインを検討していき、古材を中心に、杉板や漆喰など日本の素材と、海外製のアンティーク照明やインテリア類等を組み合わせたデザインとなっていった。床板は廃校になった古い教室の床板を山梨大学の学生さん達とDIYで再生し、再利用した。店舗の壁もDIYを行い、あえてラフに仕上げてあり、全体の雰囲気に馴染んでいる。天井からは、ヨーロッパの工場で使われていた古い工業照明が釣り下がり、主役を良い雰囲気に照らしている。古材や自然素材、アンティーク照明等を取入れてオープンした店舗は前からそこにあったような雰囲気を感じさせ、かつ古びた印象を受けない。また、木や漆喰等の自然素材を使用したことや、内装の仕上げをあえてラフにしたこと等により、空間に手作業のぬくもりや温かみを感じることができる。主役の機械やインテリアの品も以前に多くの人が使っていたため、空間の雰囲気と調和している印象だ。
活版印刷という歴史の継承と空きビルの再生、中心市街地の活性という意味合いを込めて、建築に反映させることができたのかもしれない。話を聞くと、活版印刷の活字を鋳造してくれる活字屋さんは今や日本で2件しかないそうだ。建築業界でも、効率性や利便性、真新しさが求められて建築の在り方が変わってきているが、先人たちが積み重ねてきた歴史や伝統の良さ、不便さの中の良さ等を体感できるプロジェクトとなった。まさに、「古くて新しいモノ」という言葉を体現できた貴重な機会となった。
甲府市中心市街地に長年、空きビルだった現、第五丸銀ビル。
かつては飲食店や事務所、人気アパレル店が入っており、それは賑やかであったことを耳にする。
赤いレンガ造りと辛うじて生き抜いて生えているツタ、そして南側には特徴的な大きな窓が目を引いた。
今ではあまり見られない建築デザインでアンティーク。
周辺の商店街は、落書きされたシャッターが目立ち、薄暗く、通る人はみなどこか足早に通り過ぎて行く。
「このビルをなんとかしたい」
そんな想いからのスタートでした。
SHOEIさんとは、「リノベーション」というキーワードで巡り合えたご縁です。
今でこそ良く耳にする言葉ですが、この新築神話の根強い日本でかなり前からリノベーションの本質を発信し続けていたことを思い出し声をかけさせて頂きました。
一本、筋の通った信念を貫いてきていらっしゃるのか、様々な場面で直面する際の判断力はとても清々しく、社員の皆様方のお人柄も相まって最終的には、「全てお任せします」と委ねておりました。
どんなことでもそうですが、便利な世の中となり、モノに溢れ、選択肢が数えきれないほど増えた現代だからこそ、「人」の魅力というものは、信頼そのもので宝ものです。
私たちが数年かけて温めてきた想いを具体的にそして想像以上のカタチにしてくださりありがとうございました。繋がれたご縁に感謝しております。
オリオン活版印刷室 小澤美寿々