依頼主は、東京や甲府など故郷の南アルプス市から離れて暮らす三姉妹。子ども時代を過ごし、20年近く空き家になっていた本家を親族から受継いだため、何とかしたいとのことであった。
物件は、築後100年程度建っていた石場建て工法の古民家であり、旧家には35㎝角の立派なケヤキの大黒柱や24㎝角のえびす柱、曲線を描く松の木の梁や、桜板の縁側など、今となってはめずらしいものがたくさん残されていた。「自分たちの思い出のある建物を残したいと思いました」という依頼主の想いに寄り添い、柱や梁、建具を可能な限り残し、面影を残したままのかたちを提案した。
昭和期のリフォーム箇所や、増築箇所は撤去し、100年前の建築当初の姿に戻すことを目的として、計画を考えた。
養蚕所の面影を残す2階の雰囲気や田の字に区切られた広間の間取り、雪見窓などはそのままに、水回りや玄関などを暮らしやすくアップデート。真夏には、漆喰を塗るDIYも行った。
「リノベーションを行ったことで改めてこの建物の良さに気づくことができました。今からではお金をかけても実現しない建物を守ることができるのがリノベーションの良さ。ここからまた100年過ごせるように強くしていただきました。代々、守り継いでいける憩いの場になってほしいと思います」とこちらの心が温まる感想をいただいた。今では、季節ごとの飾り物をし、綺麗になった古民家で、和気あいあいとした声が聞こえてくる。